FDAが重症低血糖に有用なイーライリリーの鼻腔用粉末グルカゴンを承認
stevepb / Pixabay
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はじめに

2019年7月24日、米国食品医薬品局(FDA)は、注射なしで投与できる重症低血糖の緊急治療薬として初めて「Baqsimi鼻腔用粉末」を承認しました。

この新薬「Baqsimi鼻腔用粉末」が承認された会社は、イーライリリー社(Eli Lilly and Company:LLY)です。

重症低血糖とはどういう病態&どのように起こるのか、この新薬が従来の薬よりどこが優れているのかなどについてまとめたいと思います。

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イーライリリー社

イーライリリー社(Eli Lilly and Company:LLY)は、1876年にイーライリリー大佐が設立した会社です。

1923年には、世界で初めてインスリン製剤を発売し、1982年には、遺伝子組み換えによる世界初の医薬品であるヒトインスリン(ヒューマリン)を発売したことで有名です。

その他にも有名な薬剤を結構立て続けに開発しています。

1992年には統合失調症の治療薬であるジプレキサと、膵癌や非小細胞肺癌の治療薬であるジェムザールを、2004年にはうつ病等の治療薬であるサインバルタを発売しています。(いずれも米国での発売年)

ジプレキサやジェムザールなんかは残念ながら特許が切れてしまっていますが、ジェネリックを含めると、現在でも結構使用されている印象ですね。

現在の主力製品は次の通りです。

薬剤名 2019年Q1売上額 種類 適応疾患
トルリシティ $879.7million 持続性GLP-1受容体作動薬 2型糖尿病
ヒューマログ $730.8million インスリン製剤 糖尿病
アリムタ $499.2million 代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤 悪性胸膜中皮腫、非小細胞肺癌
フォルテオ $312.9million 骨粗鬆症治療剤 骨折の危険性の高い骨粗鬆症
シアリス $308.2million 勃起不全治療剤 勃起不全
ヒューマリン $297.7million インスリン製剤 糖尿病
トルツ $252.5million ヒト化抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤 尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
Basaglar(注1) $251.4million インスリン製剤 糖尿病
ジャディアンス $203.6million 選択的SGLT2阻害剤 2型糖尿病
サイラムザ $198.3million 抗VEGFR-2モノクローナル抗体(抗悪性腫瘍剤) 胃癌、結腸・直腸癌、非小細胞肺癌など
ベージニオ $109.4million CDK4及び6阻害剤(抗悪性腫瘍剤) 乳癌
オルミエント $82.1million ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤 関節リウマチ

注1: Basaglar・・・日本では「インスリングラルギンBS」

 

イーライリリーはやはり糖尿病に非常に強いことがよくわかりますね。

また、自己注射製剤と抗癌剤が売り上げの多くを占めているようです。

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グルカゴンとインスリン

現代においては、人類は「飢える」ことが非常に珍しくなり、むしろ「食べ過ぎる」ことが問題になることが珍しくなくなっていますが、このようになったのは本当にごく最近の出来事に過ぎません。

人類の歴史のほとんどの時間は、「飢餓」との闘いでありました。

そういった理由から、人間の体では、「血糖を下げる」ことよりも「血糖を上げる」ことが重視されており、血糖を下げるホルモンはインスリンしかありませんが、血糖を上げるホルモンはいくつもあります。

そのうちの1つがグルカゴンで、膵臓にあるランゲルハンス島のα細胞から分泌されるホルモンです。グリコーゲンの分解を促進して、血糖を上昇させる作用があります。

一方、唯一血糖を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から分泌されます。

重症低血糖とは?

糖尿病の患者さんは、血糖を下げる薬を飲んだり、インスリン製剤などの注射を自分で行ったりしています。

体調や生活リズムの変化によって食事量や運動量が変化した際に、血糖を下げる内服薬や注射薬が効きすぎることによって低血糖になってしまう危険性があります。

ほとんどの人は低血糖になると症状が出現します。様々な症状がありますが、たとえば、冷や汗、動悸、目のかすみ、眠気やあくびといった症状です。

さらに低血糖が進行すると、意識を失い昏睡状態になります。この状態を重症低血糖といいます。

前述したような、冷や汗、動悸、目のかすみ、眠気やあくびといったいわゆる低血糖症状が出現した場合は、すぐにブドウ糖や、ブドウ糖を含んだ飲食物を摂取することで血糖が上昇し、低血糖状態を解消することが可能です。

しかし、こういった代表的な低血糖症状をまったく感じることなく、突然意識を失う人がいます。

こういった人が一番怖いです。

突然、低血糖によって意識を失ってしまった場合は、ブドウ糖や、ブドウ糖入りの飲食物を口から摂取させることができません。

ただ、このような場合に家族ができる治療があります。それがグルカゴンの投与です。

しかし、大きなハードルがあるんですよね。筋肉注射しなければならないのです。

しかも手技がめちゃくちゃ煩雑です。羅列してみますね。

二つの瓶のキャップをはずしゴム栓をアルコール綿で消毒→溶解液を注射器で吸い取る→溶解液をグルカゴン製剤の瓶にゆっくりと注入→泡立てないように静かに回し溶解→グルカゴン製剤を注射器に吸い取る→注射器から空気泡を抜く→注射部位を消毒し皮膚をつまみ注射器を垂直に立てる→針を皮膚に刺し注射液が全部なくなるまで注射

以上です。

家族が昏睡状態になっているときに落ち着いてこれができる人いるんですかね・・・笑

やはり実際にも、きちんとグルカゴンセットを持っていて、かつ家族にグルカゴンを打ってもらえるケースは非常に少なく、このような状態になった場合は、救急車で病院へ行ってブドウ糖液を静脈注射してもらうことがほとんどです。

 

今回承認された新薬は鼻腔に投与できるということがポイントですね。

意識を失っていても鼻腔は閉じませんし、なによりこの煩雑な注射手技がなくなれば、重症低血糖によって意識を失った際に家族などにグルカゴンを投与してもらえるチャンスがかなり増えることが期待されます。

まとめ

今回は、重症低血糖症を注射なしで緊急治療できる、イーライリリー社(Eli Lilly and Company:LLY)の新薬「Baqsimi鼻腔用粉末」がFDAに承認されたことを記事にしました。

重症低血糖は非常に怖いですが、本人もしくは家族がこの新薬を常に携帯すれば、重症低血糖が起こってしまった場合に速やかに対応することができます。

ただ糖尿病の根本的な治療薬ではないため、イーライリリーの業績にどれくらいの影響を与えるかは今のところ未知数ですね。

一方で、重症低血糖の頻度は少ないですが、低血糖を起こしうる患者=糖尿病治療を受けている全患者ですので、かなりの人数に処方される可能性も秘めています。

米国の医療保険会社としては、病院へ救急搬送されるくらいなら、この新薬を積極的に処方してもらって、重症低血糖が起こった際に自宅で速やかに治療してもらうことで、結果的に治療費を抑えることができるという考えになるかもしれません。あくまで推測ですが。

日本の場合は保険適応の範囲がどのようになるかといったところに注目ですね。

 

ところで、Zenさんはイーライリリーの株をどれくらい持っているんですか?

一切持っておりません!
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